B美人OL(元保険外交員)が行く別所温泉・湯けむり巨人紀行
「あー、もしもし私ですが」 なんだかこの電話、鷹揚な態度ですね。電話するときはちゃんと名のってもらいたいですね。 「え、誰?」 「私でーす。サガラでーす」 「あ、ども」 「ミカちゃんは、たしか台東区に住んでるんだよねー。ムフフ」 「そうですけど」 「ウフフ。隅田川の近くだよねー」 「そうですよ」 「ウフフ。ウフフ。でもあんまり隅田川のことって知らないでしょ?」 「……そうですねー」 「そうだよなー、意外と近くのことって知らないものだよなあ、アハハ、アハハ」 「……あ、あの……何ですか、いったい?」 「知りたい? 知りたい? 知りたい?」 「は、はあ」 「うふふ、うふふ、実はね! 隅田川って、巨人が掘ったんだぜ! すんげぇ〜ハナシだよなあ! アハハッ! アハハハハ〜」 「………………」 「あれ〜? どうしたの?」 「それはこっちのセリフです。何のことやら全然わかりません!」 「だからね、かくかくしかじか……(『巨人のドシン』及び「キョジンツアーズ」の説明)……でね、墨田川は、“だいだらぼっち”っていう巨人が掘ったっていう伝説が残っているんだ。というわけで、浜松町からフェリーに乗って隅田川を上って、北区にある“だいだらぼっち塚”を探すってのはどう?」 「はあ……」 「はあ、って……」 「そうですか」 「そうですか……って……行こう」 「行ってください」 「じゃなくて、一緒に行こうよ!」 「なんで?」 「なんでって? イイじゃん! 行こうよ! デートだよ! 今度の日曜! どう?」 「あー、ダメですね、予定あるし」 「なんだよう! イイじゃん! 元保険外交員だってバラすぞ!」 「別にイイですけど」 「チ、チクショウ! 何だよ! 予定がある? そんなコト言って、適当にあしらおうとしてるだろう! 予定って何だよ〜」 「家族会議です」 「カ、カ、カ、家族会議〜? そんなんやるのか、キミの家は!」 「そう。だから実家帰るの」 「実家ってどこだっけ?」 「長野です」 「あ、そう、長野って……艦長、あなたは間違ってます! の長野?」 「ええ」 「ふーん。長野、長野ね。あのさあ、意外と自分の出身地のことって知らないものだよね」 「……はあ」 「ウフフ。ムフフ。長野にもねぇ、だいだらぼっちの伝説って沢山あるんだよね」 「ああ、そういえば」 「ウフフ、ウフフフフ……え? そういえば?」 「小学生の頃、菅平のスキー場に行ったんだけど、そこのゲレンデの愛称がダボスといって、ダイダラボッチの伝説から名付けられたって聞いたことがあるような気がする」 「じゃ、そこ行ってきて、写真撮ってきてくださ〜い。よろしく」 というわけで、キョジンツアーズにかこつけてデートしようと目論むサガラッチの腹黒い野望は破れ去ったのでした。で、数日後。 「あー、もしもし私ですが」 なんだかこの電話、鷹揚な態度ですね。電話するときはちゃんと名のってもらいたいですね。 「え、誰?」 「私でーす。サガラでーす」 「あ、ども」 「で、ダボス行ってきてくれたかな?」 「行かなかったです」 「え?」 「行かなかったです」 「…………ウソツキ。やっぱり僕を適当にあしらっただけなんだね、そうなんだね」 「違いますよ。別のところに行ってきたんです」 「別のところ?」 「うん、調べてみたら巨人の伝説の残っている所って色々あって」 「わざわざ調べたの?」 「はい」 「…………(なんだ、いいコじゃん)」 「写真、送りますね、じゃ。」 ガチャ、ツーツー。 「…………」 数日後。 「あー、もしもし私ですが」 なんだかこの電話、鷹揚な態度ですね。電話するときはちゃんと名のってもらいたいですね。 「え、誰?」 「私でーす。サガラでーす」 「あ、ども」 「写真届きましたので、解説していただきたいのですが」 「はい。まず最初に行ったのが大座法師池。ここは家の近所で小学生のとき遠足で行ったところです。私は忘れてたんですけど、妹が伝説のことを覚えてたので行ってみました。名前がそれっぽいですよね。どういう伝説があったかということは、石碑(写真1)の裏に、このように書いてあります。 “その昔、だいだらぼう というとてつもない大男が飯縄山(いいづなやま)を海にほうりなげようと思い、山に手をかけ うんこらしょと足を踏ん張ったとたんに足が大地にめりこんで、でっかい足跡ができ、ここに水が溜ってできたのがこの大座法師池といわれています” 池の周囲は遊歩道になっていて、キャンプ場としても利用されています。行ったときはちょうど紅葉が水面に映えていて、わーキレイって感じでした。池の向こう側に見えるのが飯縄山(写真2)ですね。足もとが池で、この山まで手が届くっていうんだからすごいですよね。でけーなあ、って思いました。翌日は上田市の盆地の塩田平に行ってきました。図書館で“大男のでいろっぱち”っていう民話を見つけたんです。それによると、塩田平は昔、海だったんだけど、でいろっぱちが人間のために山を崩して埋め立てたそうなんです。で、何かあるかもしれないと思って。というか別所温泉に行きたかったんですけどね。で、その帰りにあちこち回っていたら、それらしき池を見つけたので撮影してきました(写真3)(写真4)」 「へぇ〜。ここは、お寺の中?」 「そうです。安楽寺です。特に伝説の解説なんかは表示されてなかったのですが」 「いや、でも、僕の手もとの資料にも“別所の安楽寺から越える山上の窪地にデーラボーの足跡がある”(『信州の伝説』)とあるし、上田市には“でえら坊伝説が三カ所に残っている”(『小県郡民譚集』)そうだから、この池も巨人の足跡である可能性は高いね。いや、本当にどうもありがとう、わざわざ……」 「いえ、どういたしまして。じゃ、そーゆーことで」 ガチャ、ツーツー。 「………………」
文中ではそっけないミカちんですが後日、こーんな素敵なイラストアンドメッセージをファックスしてくれました。サンキュー!ミカちん! |